燗酒の季節が到来・・・とは言いません。
一年中燗酒をメインにしているつもりですから。
もっとも季節の移り変わりとともに、燗酒の味わい方も変わっていくことは確か。
この季節は燗酒で体の芯をじっくりと温めて帰っていただきたいと思います。
そこで毎年当店で活躍するのが「生もと造り」のお酒。
雑味のないきれいな味わいながら奥行き・味幅のある飲み応え、さらに「押し味」と呼ばれる後半のふくらみと心地よい余韻を感じさせるのが生もとの特徴。
それら特徴の強弱や複雑さに伏在する各蔵の特徴(主張)を楽しむ間に、体の芯がじっくりと温められることは間違いなし。美味しいとか美味しくないを越えた非常に満足度の高いお酒だと思います。
さてこの「生もと」に合わせる料理としては、当店ではまず「おでん」をおすすめします。鶏ガラ・魚アラ・昆布・カツオのだしに加え、おでん種からしみ出す旨味がつくり出すやさしいながら複雑な味わいは、生もとの味わいと相通ずるものがあるように思います。このブログを読んでくださるような常連さんにはあまりご注文のないおでんですが、大根だけでも練り物だけでも、ぜひ「生もと」とおでんのマッチングを試していただきたいと思います(まさに燗酒屋としての矜持が、あまり注文がなくてもおでんを作り続ける理由なのです!)。
チーズ、へしこ、味噌などの発酵食品も「生もと」には欠かせないパートナーです。ただ、強烈なチーズやへしこそのもののようないわゆる辛党の最右翼が好むような肴は「生もと」の雑味のない綺麗さには合わないような気がします。(当店のビアザビオさんのオーガニックチーズやへしこを使った料理なら大丈夫)
重層的な味つけのものやひとくせある料理が「生もと」のうまさを引き立てる一方で、季節の食材のうま味を引き算で活かした和食や素朴な家庭料理に合わせると「生もと」のお酒は引き立て役にまわるからなんとも不思議。懐深く受け入れる一方で軽業的に、フットワーク軽く食材を引き立てる。西郷隆盛と坂本龍馬が一緒になったような・・・
以下当店の「生もと」のお酒、新入荷。
〇肥前蔵心 きたしずく 生もと
本当に「センス」のある造り手だなぁと飲むたびに思うのですが、今回挑戦した北海道の酒米で醸したこのお酒も素晴らしい出来映え。
〇杉勇 雄町 生もと
山形の良心、杉勇の生もと原酒。きれいでやさしくて力強い。蔵の特徴、造りの特徴、米の特徴が三位一体となった逸品。
〇杉錦 きんの介 (新酒)
個人的に毎年楽しみにしているお酒です。生もとの特徴に加え新酒のフレッシュさも楽しめます。常温でもお燗でも。