日常(1)

大坂なおみのドキュメンタリー映像を見た。

 

直近の全仏オープンでの会見拒否が話題になったが、それまでの一連の会見では、彼女はあまりにも正直に心の内を語っていることに驚く。少し目を伏せ、あいまいな笑顔を浮かべた表情は、混沌とした感情が茫洋と広がっている状態を、なんとかそれに整理をつけようと格闘しながらゆっくりと自分の気持ちを語っている。

屈託のない笑顔で人の目をじっと見て、あいまいさのない自信にあふれた語りが勝者の論理だとしたら、大坂はたとえ試合での勝者だとしても、勝者とは対照的な敗者の論理で記者会見に臨んでいるかのようだ。

もっと言えば、会見での小声で語られる自己主張は、彼女がマスクをもってオマージュした、黒人の犠牲者たちの背後にある声なき声を連想させる……と、こんなことを思うのは大坂なおみのドキュメンタリーの前に『この世界の片隅に』を娘と一緒に見たせいだろうか。

 

(続く)